あなたがバスケットボールをはじめたきっかけは何でしたか?あなたがもうすでに大人であれば、子どもの時、どんな気持ちでバスケをしていましたか?
このテキストでは、初めてバスケする子どもの気持ちと題し、子どもの立場に立って考えることで、より良いコーチングや親としてのお子さまへの接し方を学ぶことができます
- 球技スポーツや、身体を動かすことに苦手意識のある子どもの気持ちを考えます
- 周りと協調することが苦手な子どもの気持ちを考えます
- 指導者や保護者としてできることを考えます
バスケをはじめたきっかけ
あなたは、バスケを始めたきっかけを覚えていますか?
筆者は「お友達に誘われたから」でした。小学校5年生の時、それまで続けていたサッカーの友達から仲間外れにされ、サッカーを続けるか悩んでいた時です。同じクラスになった子が、学校の休み時間に誘ってくれたのがきっかけです。
兄姉がバスケをしていたり、親がバスケをしていて自然と始めるというのも多いです。漫画やテレビアニメがきっかけという子もいますし、B.LEAGUEや日本代表の試合を観て憧れたというきっかけもあります。
何にしても、能動的に「バスケしてみよう」となるよりは、受動的に何らかの刺激を受けてはじめるケースばかりかと思います。興味本位ではじめる、未知なるスポーツ。それが最初のバスケットボールです。
はじめてバスケした時のことを覚えていますか?
あなたがすでに大人であれば、はじめてバスケした時のことはすでに忘れてしまっているのではないでしょうか?子どもたちが初めてバスケをする時、色々な状況は考えられますが、多くの場合、バスケットボールという「遊び」の大枠をぼんやり捉えているだけだと思います。
筆者も、その時のことを思い出そうとしても難しいのですが…おそらく、コートを移動する時はボールをつく(ドリブルをする)必要がある。というきまりを知っているくらいでした。
他に知っていることと言えば、ゴールにシュートを入れれば得点が入ることです。それが1点なのか、2点なのかはわかりません。実際のところ、何人で対決するのかも知りません。どんなボールでやるのかも知りません。当たり前ですが、トラベリングやダブルドリブル、ピボットなんて知る由もありませんね。
当時、私の小学校にはクラブチームが無く、教えてくれる先生やコーチもいませんでしたので、ルールは友達に教えてもらったり、漫画から学ぶことになります。それでも、バスケという「遊び」はとても楽しかったです。めちゃくちゃハマりました。
それから、休み時間や放課後の時間で毎日のように友達とバスケをしていました。
下手なのに、何もわかってないのに、運動が得意ではなかったのに、とても楽しかったのはなぜでしょうか?
過去の経験をヒントに、以下に「初めてバスケをする子どもの気持ち」を考えていきたいと思います。
“苦手意識”は時間をかけて取り除く
昔から、運動能力が他の同級生よりも劣っていると「運動音痴」なんて言ったりしましたよね。そんなことを言われると余計、運動に対してネガティブな意識を持ってしまいます。
「運動神経」という間違った言葉
学生時代はいわゆる「運動神経が良い」同級生が神様かのように扱われたり、その子の未来を過度に期待してしまうケースがあります。しかし、そのような固定概念は間違っていることをお伝えします。
将来の子どもの身長に関して言えば親の遺伝の要素は大きくなりますが、運動神経に良し悪しがあるというのは迷信に過ぎず、子どもが生まれてからこれまでの「運動経験値」によって今、運動動作が周りの子どもよりも優れているか、そうでないかに分かれているだけなのです。
ちなみに、筆者は小学校4年生までは、周りの子どもたちと比べて運動が苦手だったので、劣等感を感じていました。バスケットボールをはじめた5年生の頃から、足が急に速くなったり、身長が急に大きくなり、筋力が上がってくるのを感じました。今考えれば、一人っ子で、夫婦は共働きだったのもあり、他の子どもよりは幼少期の運動経験値が乏しかったのかなと思います。
難しすぎることは、一旦”やらない”
運動に苦手意識のある子どもは、往々にして親もそれを認めてしまっていることが多いと感じます。またそれが子どもに伝わっていたり、周りの子どもから言われているケースもあります。
苦手意識を取り除いていくためには、メンタル面についても同時に考えていかなければなりません。苦手なことや、”今の自分にとっては”難しすぎることを嫌々取り組んでいても、気が滅入ってしまいます。
バスケットボールにチャレンジするにあたって、クラブチームやスクールに所属すれば、他の子が簡単にやるようなメニューでも自分にとっては非常に難しいということもあると思います。
その場合は、できないことを嘆くのではなく、一旦”やらない”(頑張らない)というように、あえて遠ざけておくことも大切です。
「できる」を増やした後に再チャレンジ
難しいことはやらなくて良い、というお話をしてしまうと、「できないことをそのままにしておくのか?」ということになりますが、もちろんそうではありません。
難し過ぎること=その選手の現在の能力に見合わない難易度の練習を無理に習得しようとすれば、その競技に対する苦手意識が高まってしまいます。メンタル的にも「もうしんどい…」となってしまう可能性があります。
メンタル的に「これならできそう!」ということからチャレンジを積み重ねていく内に、かつて難しかったミッションに再チャレンジするタイミングが訪れます。その時は、ストレスなく成功体験を得ることができるかもしれません。
“協調性”は押し付けない
将来のことを考えれば、お子さまが協調性に欠けていると不安になってしまいますよね。学校の成績表などで評価されることで「うちの子には協調性が足りない」と思ってしまうのは仕方ありません。
協調性は、社会を生きる上で必要不可欠なヒューマンスキルです。バスケットボールなどのチームスポーツを通じて、協調性を養いたいと考える保護者様も多いかと思います。
協調性とは、「周りの人たちと仲良くしましょう」ということではありません。自分と異なる境遇だったり、違う考え方や価値観を持つ人たちと協力しながら、同じ目標を達成するために行動できる力です。自分の考えや意見ははっきりと持ちつつ(表現しつつ)、周りの人の考えや意見も取り入れながら大きな目標を達成する。
実は、大人でもできていない人は多いですし、協調性を評価すること自体が正解ではないような気さえします。なので、あなたのお子さまの課題のひとつとして捉えつつ、大人の価値観として協調性を押し付けないように意識してみましょう。
チームスポーツの考え方は一旦置いておく
バスケットボールはチームスポーツです。TEAMの意味(語源)は、それぞれの頭文字をとって
T:Together(一緒に)
E:Everyone(みんなで)
A:Achievement(達成する)
M:More(より大きなことを)
と言われています。「勝利」という大きな目標に向かって、みんなで協力しよう!逆を言えば、それぞれの協力無しに勝利はありえないのがチームスポーツです。チームの一員として”まさに”協調性が問われます。
しかし、それは勝利という大きな目標に向かって進む時の話。バスケットボールをはじめたての子どもが、そのような夢や目標を持っているかと言えば…きっとそうではないと思います。
それに、小学校6年生くらいまでの子どもたちは、自分が楽しむことを最優先にします。「今」に一生懸命になれる天才です。そして、好きなことに時間を忘れて没頭しますよね。
この経験が、人生でとても大切なことのひとつだと思います。
変化があらわれるまで見守る
バスケットボールという「遊び」を、まずは目一杯楽しみましょう。
きっと、夢や目標という感情が芽生えてくると思います。ゴールを描けた時、子どもたちは急成長の段階に入ります。この成長の段階には数年単位で個人差がありますので、変化があらわれるまで見守りましょう。
そしていつか、「遊び」が「競技スポーツ」に変わっていくタイミングが来たら、バスケットボールを通じてチームスポーツを学んでいきましょう。
「楽しい」や「やりたい」を選択すれば吉
あなたが子どもだった頃、つまらないことや、やりたくないことがあったらそれと本気で向き合っていましたか?おそらく「NO」だったと思います。
逃げることもひとつの選択です。逃げることで、本気になれることと出会えるかもしれないからです。
「ちょっと難しい」→「ちょっとできた」の成功体験から
先にも述べましたが、夢中になれる鍵は、「小さな成功体験を積んでいくこと」です。バスケットボール初心者のうちは、飛んできたボールをキャッチするだけでも、難易度が高いです。
そのプレイヤーの年齢、運動経験値などを考慮して、「ちょっと難しい」→「ちょっとできた」という成功体験を積ませてあげることで“バスケットボールは自分に向いている”と考えられるようになります。
この経験を通じて、もっと難しいことにもチャレンジしてみたい。こんなことができるようになりたい。と目標が具体化していきます。プロ選手になりたい。試合で勝ちたい。といった夢や目標を描けるということは、そうした体験を経て、少しずつバスケットボールへの愛を育んでいくからこその賜物なのです。
ゲームがいちばん楽しい
「試合」=練習でやったことを試し合う時間
という解釈があります。もちろん、練習でやったことを試合で試して、トライ&エラーを繰り返すことが上達への近道であることは間違いありません。
しかし、バスケットボールをはじめて間もないプレイヤーは、「練習したことを活かすこと」よりも「純粋にバスケ=遊びを楽しみたい」という気持ちが一番大きいです。
試合で負けたり、悔しい思いをしたことがあるから、練習がどれだけ大切かわかってくるもの。
バスケをはじめたばかりのプレイヤーたちにとって、ゲームがとにかく楽しいし、エキサイティングであることは言うまでもありません。
指導者としてできること
日々、バスケットボールの指導にあたっている皆さんは、普段から選手たちにどのような声かけをしていますか?練習中のあらゆるシーンで、大人の目線で、経験者の熱量や感覚で、すでに出来上がった常識という価値観をもって、それをついつい口に出してしまっていないでしょうか?
子どもにとってこのような声かけは最小限に抑えておく必要があると思います。目標に向かっていく時、道標は少なければ少ないほど、自分で考えて行動するようになると思うからです。
「シュートをどうやって打つか?」を教えることは初心者には効果的ではあるのですが、「今日は何本シュート決めるか?」さらに「スウィッシュで決めてみよう!」というようなシンプルかつ明確な目標を決めれば
子どもたちは喜んで頑張ってくれます。
次のような指導もそうかもしれません。「顔を上げてドリブルしよう!」とか「ドリブルは強くつこう!」というメッセージですが、経験者の目線で考えれば、バスケットボールにおいて本当に大切なことですよね。
ここで考えていただきたいことは、バスケをはじめた子どもに、そのメッセージは響くのか?ということです。試合をあまり経験していない選手に伝えたとすれば、本来、ライブの試合で経験できる失敗に対して、先回りしてしまうことにならないか?失敗から学ぶ、成長のチャンスを奪うことになってしまうかもしれません。
たくさんの成功や失敗の経験を通じて選手は成長していきます。これはとても重要なプロセスだと感じています。では、指導者には何ができるのか?考えていきましょう。
発育・発達段階に応じたトレーニング
子どもの発育・発達段階に応じたトレーニングの提供が必要になってきます。
器用性を高めるために行うコーディネーショントレーニングはより多く取り入れていくべきだと言われています。神経系の発達は、4歳から5歳までには成人の80%、6歳で90%にも達し、12歳でほぼ100%になります。この時期に、脳に様々な刺激を与えるために「勉強」や「遊び」をたくさん行うことは大切です。
4歳から12歳までの発育・発達段階に応じた様々なトレーニングを経験することで、バスケットボールなどのスポーツを生涯楽しむことのできる健康な身体を作ることができます。
エキサイティングな練習メニュー
バスケットボールは複雑な動きの多いスポーツです。多くの技術を習得した上で、またそれを試合中のふとしたタイミングで発揮できるようにする必要があります。そのため、技術の習得に反復練習は欠かせません。
しかし、バスケットボール初心者や、神経系が発達段階の子どもにとって、大人が言葉や身振りで伝えたことを無理に反復するだけでは、ストレスを感じずに習得することは困難です。
プレイヤーの競技離れを避けるために、末永くバスケットボールを楽しんでもらうためにも、指導者としてはエキサイティングな練習メニューの提供を心掛けて欲しいと思います。
完璧を求めない
練習の出来映えにこだわってしまう指導者の方は、是非、完璧を求めずに指導を行ってみてください。
あなたのバスケットボールへのイメージは、もしかしたら競技スポーツへと昇華された後の記憶によるものかも知れません。小学生、中学生の子どもたちは神経系の発達段階にあり、思うように体が動かせないのは当たり前のこと。間違いが多く起こっていたり、一見ぐちゃぐちゃしている状況が自然なのです。
完璧を求めることを辞めてしまえば、きっとあなたの気持ちが楽になるのと、取り組む過程で子どもたち自身で少しずつ修正、改善をしていくので「予想外の収穫」が得られる可能性が高いです。
コーチ自身が楽しむ
コーチがバスケットボールを愛していること、これができている指導者は少ないような気がします。競技化してからも、バスケットボールは遊びの延長であり、バスケットボールは面白い、愛すべきスポーツです。
プレイヤーに楽しんでもらいたいと思うのであれば、コーチが率先してバスケを楽しむことを強くおススメします。コーチが笑顔なら、子どもたちも安心してプレーできます。しかし、コーチがムスッとしていたり、常にイライラしているような表情や仕草、言動、行動があればプレイヤーはそれをすぐに察知します。
指導の方針はそれぞれあるにせよ、あなた自身がバスケットボールの伝道師となり、プレイヤーに伝播させていくことができれば自然と、プレイヤーは心の底から楽しんで練習に取り組んでくれることでしょう。
保護者としてできること
子どもは、大人と違って何かを成し遂げた時の明確な報酬がありません。バスケットボールにチャレンジするお子さまを保護者としてサポートする上で、是非お子さまの「心」を満たしてあげて欲しいと思います。
話を聞いてあげる
練習の帰り道、帰ってからの食事の時など、子どもの話をしっかりと聞いてあげることはとても大切です。
子どもは、親の影響を最も受けます。あなたがマイナスな行動や言動を日常的に行っている場合、子どもは、あなたの行動や言動を映す鏡となります。ですので、親は常日頃からプラスに働く言葉選びをしていく必要があります。
子どもの話をすべて聞き、それを認めた上で、あなたができる最良のアドバイスを贈ってあげることが、バスケットボールを続ける未来につながります。
たくさん褒める・認める
子どもにとっての一番の報酬は、親やコーチ、周りの人たちから認められ、褒められることです。特に、保護者の皆さまには、常にプレイヤーの1番の味方であって欲しいと思います。
しかし、非常に難しいことがあります。それは、認めたり、褒めたりするタイミングです。
子どもだからといって、むやみやたらに褒めたり煽てたりすれば、それは偽りであるとすぐに気がつきます。もしかしたら、子どもは大人よりも敏感かもしれません。
バスケットボールに関してお伝えすれば、これまでできなかったことができるようになった時や、新しいことにチャレンジして、たとえそのチャレンジが失敗したとしても、チャレンジしたことに対して称賛していただきたいと思います。そのためにも、普段から子どもの様子を把握していただきたいところです。
干渉しすぎない
普段から子どもの様子を把握していただきたいとお伝えしながら恐縮ですが、干渉しすぎないことも重要です。
子どもが一生懸命にプレーしている時に、コート外から親の声が聞こえてきたら、ほとんどの子どもは気持ちが下がります。おそらくですが、その時の親の声は、選手にも指導者にも必要のないアドバイスであるケースがほとんどだからです。
自主練をしている時もそうです。バスケットボール経験者の親だとしても、子どもが自主的に練習をしている時はあくまでサポート役として徹してあげることが大切です。そこに指導は必要ありません。アドバイスを求めてきた時だけ、そっと教えてあげてください。
バスケットボールをプレーしているのはプレイヤーであり、プレーの選択をするのもまた、プレイヤーです。失敗が起これば修正を試みるのは指導者と、プレイヤーです。子どもたちには、主体的にプレーする経験を積ませてあげることが将来につながるのかと思います。
ぜひ、良い距離間で応援してあげてくださいね。
まとめ
初めてバスケをする子どもの気持ちと題して、指導者や保護者に考えていただきたいことをお伝えしました。
私は、10歳の時にバスケットボールと出会いました。当時は、この先ずっとバスケを続けて、バスケを仕事にする未来なんて描けるはずもありませんでした。しかし、私にとって人生を変える最初の運命的な出会いは、小学5年生という少年期となったのです。
あなたのお子さまにとって、今取り組んでいることがどんな未来につながっているのか予測できないと思いますが、運命の出会いをすでに果たしている可能性がある、ということは意識していただければ幸いです。
バスケをはじめた時、私は、ゴールにシュートを決めること”だけ”に集中してプレーしていました。余計な知識を付けていないからこそ、シンプルに「シュートを決める!」という明確な目標に向かってプレーしていました。
当時、シュートを10本・20本と放っても、たった2・3本しか入らなかったと思います。それでも、シュートが入った時はとてつもなく嬉しい。ボールがリングを通過するその瞬間に、次のプレーへの原動力がブワーっと湧き出てくる。バスケがもっと好きになる。そんな感覚がありました。
だから、たまらなくバスケが好きになっていったんだと、そんな記憶が蘇ってきます。
“バスケが大好きだ”
そんな未来を心待ちにして、バスケへの愛情を育てていくことが大切です。